テキスタイル・レザー(家具資材) / 2026-11-01

レザーの「加水分解」をどう伝えるか

  • #レザー 手入れ

レザーを扱っていると、必ず出てくる話題がある。加水分解だ。

高級本革に限る話だが、使い込むほどに色が深くなり、艶が出て、手に馴染んでくる。レザー好きにとってはこれこそが魅力で、新品より数年使ったもののほうが美しい、という人も多い。 私はPVCとPUでそのレザーを本物以上に作る一人である。 経年劣化した状態を再現したアンチーク調やクラシック調レザーは良く売れるし、企画としてはエキサイティングではないが、得意な方でもある。

ところが、PUをトップコートに使う本革、PU レザーでは、加水分解が起きて、ボロボロになってしまう。 匿名相談を受ける多くは、ナイキのプレミアムシューズが一度も履いてなく大切に保管しているが、ボロボロになった、どうやって直すか、である。

空気中の水分カット、真空パック、紫外線に当てない、の3つを施し、延命する、あるいは、ナイキに、名古屋 シンコーが開発したティエッサを使えば、問題がなくなるといってくれ。としか言いようがない。

そもそも、椅子に使う面積からいえば、靴の材料は少量であり、販売価格から考えると、椅子のPUレザーは大幅セールと一緒で、かなり安いものだ。  なぜ、使わないのか? 耐久消費財でないですよ、と言っているのと同じだからだ。 消耗品として流通し、業界が成り立っていだけの話。

店舗やオフィスのように、いつも同じ状態を保ちたい場所なら、変化の少ない仕上げのレザーや、高耐久の合成皮革(ティエッサ)のほうが向いていることもある。一方で、住まいや書斎のように、持ち主と一緒に年を重ねていく場所なら、経年変化は価値であり、張り替えてさらに価値が上がる。 張替は高いのではなく、価値を上げる、価値を復活させるためのもの、靴のように大量消費にお金を何千円何万円もかけて、椅子の値段を面積そして、使う年数で割って考えてみれば、価値観のずれに大きなひずみがあることがわかる。 文化は変わるから、ひずみはどこかで解消されると思う。

だから最近は、企画段階も含め、素材の説明より先に「どんな場所で、何年くらい使いたいか」を聞くようにしている。そのうえで、変化の少ないものと、変化を楽しむものを両方見てもらう。できれば、実際に使い込んだサンプルも一緒に。言葉で説明するより、触ってもらうほうがずっと早い。

イタリアの工場を訪ねたとき、職人さんが古いソファを指して「これが本当の価値だ」と言っていたのを思い出す。 張り替えて、生き返る不死鳥なのだ。

とはいえ、それを押しつけるつもりはない。変化を楽しめる人には、その楽しみを。変化を避けたい人には、それに合った素材を。素材を売るというより、使う人の暮らしに合わせて選ぶ手伝いをする。この仕事の面白さは、たぶんそこにある。